外交の福田が聞いて呆れる

WiLL-2008年9月号
九段靖之介
永田町コンフィデンシャル
外交の福田が聞いて呆れる

福田首相の了見が、どうにもわからない。
中学教科書の指導解説書から、「竹島はわが国固有の領土」と明記するのを断念した。
領土放棄を世界に向けてアナウンスするにひとしい。少なくとも韓国はそう受け取る。
コトは尖閣列島、北方四島にもおよぶ。中国もロシアも、日本は押せば引くと見る。
かつて韓国大統領・李承晩は、宰相・吉田茂と共にGHQ総督の官邸に招かれ、夕食を共にした。
李は日本占領時代を話題にし、やおら両手をかざした。その指に爪がほとんどない。
「日本の憲兵が私を拷問して、このとおり爪を引き抜いた。
以来、私は日本のすべてに反対するようになった」(ダレス文書)
李は朝鮮戦争のさなか、李承晩ラインを勝手に定め、これを越える日本船を盛んに拿捕した。
島根県に属する竹島を「独島」と名付けて占有した。つまり竹島問題は李承晩の怨念に発する。
しかし個人の怨念は占有を正当化しない。そんなことが許されるなら、国際法もヘチマもない。
「独島占有」は永年にわたる。永きにわたる実効支配をもって「占有」は「専有」と化し、
国際法では「専有権」を認めるにいたる。民法の「占有権」と同様だ。
要するにボヤボヤしているほうが乗っ取られる。まして「わが国固有の領土」の表現を
引っ込めた事実は、今後、仮に国際司法裁判所で争う場合に考慮される。
同様のことは東シナ海のガス田についてもいえる。国際法では双方200海里の海域が重なった場合、
中間線をもって領海を定めるとしている。ところが中国がそれを認めず、わが領海は
沖縄トラフにおよぶと主張し続けている。問題の核心は中間線の認定にある。
さきの胡錦濤来日のおり、双方の実務者会議が持たれた。結果、日本側は「中国は中間線を認め、
対等の共同開発、利益の等分が決まった」とする。福田も外務省も、そうアナウンスした。
メディアもオウム返しに報道した。一見、中国側の譲歩で合意に達したかに見える。
ところが実態は逆だ。
中国側は「中間線なんて認めていない」「日本は中国の主権を認めた」
「すべては中国側の法規に則って行われる」としている。これは何を意味するか。
①中国は沖縄トラフまでの主張を変えない②利益の等分すら危ういということだ。
日本側のアナウンスとまるで違う。
中国側の高官は洩らした。国際司法裁判所で中間線も問題を争えば、中国は負けると。
しかし裁判所は双方の合意なしには訴訟を受けつけない。これを良いことに、
中国は問題の決着を先送りにし、沖縄トラフへの主権を主張し続ける。鄧小平は言った。
「尖閣諸島は、互いに将来の世代の問題にしましょう」と。いずれ中国は、
必ずや尖閣諸島の実効支配に出る。占有→専有を図る。今回の「合意」は中国にとって
一歩を進めた。逆に言えば日本の後退だ。関係者に訊いて見た。
なぜ中国を国際司法の場に引き出さないのかと。
「日本側にも弱みがあるんです。ガスが出るとわかってから日本は参入した、と裁判所は受け取る。
後発よりも先発に優先権が与えられる。必ずしも日本側に有利な判決は期待できないんです」
ならば、一日も早く、日本側の領海で試掘を始めて実績を作ればよい。
安倍前首相はそれを意図した。それまで中国は「日本が試掘を始めれば軍艦を出す」と脅して来た。
安倍は「ならば日本はイージス艦を出す」と応じた。今のところ日本の海軍力は優位だ。
中国は安倍の在任中、脅しを引っ込めている。脅しを再開したのは福田になってからだ。
安倍は試掘の許可を帝国石油に与えていた。試掘に先立つ漁業権の交渉にも着手する手筈を整えていた。
この手筈は、中国へ向けて試掘開始のサインを送ることにもなる。これを二つながら潰したのは、
総務会長・二階俊博であり、総理・福田康夫だ。
そして今回、まやかしの「合意」に出て、さらに譲った。いったいどこまで譲れば気が済むのか。
将棋に喩えれば、銀もあげます金もあげます、ズルズルと全面後退に終始している。
中国にも韓国にも、福田は足下を見られている。いや北朝鮮にも、ロシアにも組みし易しと見られている。
拉致問題にせよ、北方四島問題にせよ、洞爺湖サミットはそれを世界に訴える絶好のチャンスだった。
なのにそのチャンスを何一つ生かせない。
諸事万端、なぜそこまでハナから尻尾を巻くのか、その了見がわからない。
「外交の福田」が聞いて呆れる。つくづく安倍の病気辞任が惜しまれる。
福田首相はノコノコと北京五輪に行っている場合ではあるまい。

  • 最終更新:2017-05-09 21:10:31

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